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「楽しくなるものを作りたい」

旭醤油、「パクチー醤油300」新発売 豪雨被害からの再起

2020年2月12日(水)(愛媛新聞E4編集係)

 「楽しくなるものを作りたい」。宇和島市吉田町で1882(明治15)年創業の旭合名会社醤油醸造場(旭醤油)を受け継ぐ中川賢治代表(46)は、商品開発への思いをそう語った。2018年7月の西日本豪雨による被害から立ち上がり、20年1月末、やっと被災前の生産体制を取り戻した。再起の陰には、友人や多くの人たちの支援と、中川さんの進取の気性、「伝統の看板がある。ここで逃げるわけにはいかん」という強い思いがあった。

 

白壁の伝統ある旭合名会社醤油醸造場

白壁の伝統ある旭合名会社醤油醸造場

白壁の伝統ある旭合名会社醤油醸造場

白壁の伝統ある旭合名会社醤油醸造場

 

 白壁の社屋の玄関を開けると、土間に醤油醸造用の木桶が飾られ、小上がりには事務所。歴史を感じる店構え。ずらりと並べられた商品は、伝統的な醤油に加え、地元特産のかんきつを使ったブラッドオレンジジュース、ふりかけ、沖漬けのタレなどバラエティに富む。その中に、ポップなラベルの「パクチー醤油」があった。2017年3月に発売されたこの商品の歩みは、旭醤油の激動の3年間と符合する。

 

【「さあ、頑張ろう!」の矢先に】

 

旭醤油の中川賢治さん

旭醤油の中川賢治さん

旭醤油の中川賢治さん

旭醤油の中川賢治さん

 

 2016年、日本では香草パクチーのブームが到来していた。パクチー好きを称した「パクチニスト」という言葉も。愛媛県を通じて、株式会社TAMARIBA(東京)から商品開発の依頼が舞い込んだ。「楽しそうだ!」と中川さんは開発を請け負うことを決めた。西条市で生産されたパクチーを使った。販売スタート時、ブームに乗って、売り上げは好調。「特に都会の若い女性に好まれました。ぎょうざ、肉料理、サラダ。赤身の刺身にも意外と合うんです」

 

 パクチー醤油以外にも、さまざまな新商品を開発し、生産能力を上げるため、2018年4月、大型冷蔵庫や製造機械など、大規模な設備投資をして、「さあ、頑張ろう!」と思った矢先だった。西日本豪雨。氾濫した泥水が宇和島市吉田町の中心街を襲った。「機械もポンプも冷蔵庫も泥水に浸かり、まったく使えない状態に。商品のほとんどを処分しなければならなくなった」。生産停止…。

 

【「逃げるわけにはいかん」】

 

玄関を入ると、醤油の木桶がディスプレーされている

玄関を入ると、醤油の木桶がディスプレーされている

玄関を入ると、醤油の木桶がディスプレーされている

玄関を入ると、醤油の木桶がディスプレーされている

 

 「高齢になっていたら、やめる選択肢もあったかもしれません。でも、この年でやめるわけにはいかない。設備投資の借金もあった。逃げるわけにはいかなかった」

 クラウドファンディングで被災情報を発信すると、支援の輪が広がった。徳島県の友人は「いつになってもいいから、送料もいらないから」と、5000円の商品を買う約束で約200人から資金を集めてくれた。「ありがたかった」

 旭醤油の向かいには避難所があり、自衛隊が設けた仮設の風呂も。多くの避難者と身近に接する中で、「やらないかん」という思いが日増しに強まってきた。

 機械が使えない中、地元小学校や病院などに卸していたベーシックな醤油の生産を手作りで始めた。パクチー醤油の製造、販売再開ができたのは2019年5月だった。

 

【販売再開、新商品の発売】

 

パクチー醤油とパクチーを3倍量にした新発売の「パクチー醤油300」(右)

パクチー醤油とパクチーを3倍量にした新発売の「パクチー醤油300」(右)

パクチー醤油とパクチーを3倍量にした新発売の「パクチー醤油300」(右)

パクチー醤油とパクチーを3倍量にした新発売の「パクチー醤油300」(右)

 

 国内のブームは落ち着いていた。だが、TAMARIBAが販売再開のニュースリリースをSNSに上げると、中国のサイトが注目した。それをきっかけに香港、台湾からの問い合わせが増加。それまで皆無だった海外輸出が、国内販売と同規模にまで伸びた。そして、20年1月23日、「パクチー醤油300」を新発売した。

 「第1弾の商品は万能調味料として開発、売り出しました。パクチーは好き嫌いが分かれるため、苦手な人も料理にインパクトを与える調味料として使っていただけるような味に。ただ、パクチニストと呼ばれるコアなファンからは『もっと香りが欲しい』という声をいただき、パクチー量を3倍にした新商品を発売しました」とTAMARIBAの担当者。

 「ピンチはチャンス」。中川さんは自分にそう言い聞かせてきた。パクチー醤油300の発売は、旭醤油が元の生産体制を取り戻した「リスタート」の時期と重なり、海外展開という新たな販路拡大の可能性を秘めて船出をした。

 

【進取の気性、ピンチをチャンスに】

 中川さんの実家は吉田町内のミカン農家だった。結婚を機に、妻の実家の旭醤油を継ぐことを決めた。「醤油って漢字も書けないくらい、まったくの素人でした」とほほ笑む。当時は、濃口、薄口、だし醤油など定番の4~5種類の醤油を生産し、吉田町内で販売する会社だった。「スタンダードな醤油には地域ごとの味があり、販路拡大はなかなか難しかった。若い人も煮炊きをしなくなり、定番の商品だけでは先が見えていました。他人が作っていないような商品、まねできないインパクトのある商品を作りたかった」。新商品開発の裏には、知人、家族、親戚、仕事で知り合った人たちの意見に耳を傾け、行動に移す進取の気性があった。

 

 

醤油醸造場が開発したブラッドオレンジジュース

醤油醸造場が開発したブラッドオレンジジュース

醤油醸造場が開発したブラッドオレンジジュース

醤油醸造場が開発したブラッドオレンジジュース

 

釣具店でしか販売していない沖漬けのタレ

釣具店でしか販売していない沖漬けのタレ

釣具店でしか販売していない沖漬けのタレ

釣具店でしか販売していない沖漬けのタレ

 友人からの「なんでポン酢がないの?」の一言がきっかけとなり、作り始めたポン酢。そこから、「もっと面白いものは」と改良して完成した「ふりかけポン酢」は、ふりかけグランプリで賞を獲得し、ヒット商品に。吉田町産ブラッドオレンジジュースは、ポン酢に使おうと絞っていた果汁を、親戚の子どもが飲み、「おいしい」の笑顔がヒントになった。

 「沖漬け醤油」もまた、知り合いの船長からの「北陸や北海道の商品はあるが、味覚が合わない。甘めの醤油で作ってくれないか」との要望に応えたもの。売り方の発想も柔軟だ。釣ったイカをこの醤油に付けておくと、1日で沖漬けが完成するという商品は、スーパーでは売っていない。「ほかの醤油と並べて売っても埋没する」。ターゲットを釣り人に絞り、釣具店だけで売る。

 

 「酒を飲みながらいろいろな話をするのが好き」と中川さん。西日本豪雨被害を経験し、多くの人とのつながりもできた。「ピンチはチャンス。急がず、焦らず、人とのつながりを大切にしながら、やっていきたい。食卓が楽しくなる仕事ができるように」

 

旭醤油醸造場ホームページ

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