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松山三越 進化するライオン 30年ぶりリニューアルの舞台裏

 創業75年を迎えた松山三越が大幅リニューアルに踏み切った。「デパ地下があって、1階が化粧品。その上階に婦人服や紳士服」といった長年地域の人々が慣れ親しんだフロア構造を一変。百貨店部分を大幅に縮小し、地元企業がホテルやフードホール、ライフスタイルマーケットなどを展開する。
 「地元の幸・健康や美、癒やしなど、これまでの百貨店では味わえなかった体験をお客さまにご提供していく」(松山三越)ことで、11期連続赤字という厳しい状況からの再生を目指す。地域が注目するリニューアル。その裏側にある従業員たちの決意と周到な戦略、そして「新しい百貨店の形をつくる」との理想を追った。(坂本敦志)

■立地は悪くない。なのに…

 

来店者の行動を調査し、1階の化粧品売り場は2階に

 リニューアルにあたって、松山三越がまず取り組んだのが顧客の動きを再確認することだ。2018年4月に就任した浅田徹社長は、グループのさまざまな店舗を経験してきたが「商店街に人が集まり、行き交う人が多い。立地は悪くない」と感じていた。なのに売り上げは伸びない。

 試しに店舗の入り口にカメラを置き、5分ごとに顧客の動きを撮影。1日何百枚にもなる膨大な写真を丁寧に分析した。社長室MD戦略マネジャーの齋藤千恵さんは「調べてみたら、皆さん入店はされているんですよ。でも買い物袋を提げて出て行く方があまりいない。いても(ベーカリーの)ジョアンの紙袋を持つ人くらい」。1階は、大理石の柱があり重厚感がある百貨店らしいフロアで、扱うのは化粧品や雑貨。気軽には入りにくいような感じがあった。

 

大きな植栽が設けられたアトリウムマルシェ

 もう一つ特徴的だったのは、例えばブランド品をたくさん購入するような上得意の顧客の動線。この層は1階からではなく上階にある駐車場から入店することが多い。いまの人たちの生活と松山三越の構成にずれがあると感じた。「それなら無理して1階からきちんと百貨店をつくらなくてもいいのではという考えになりました」

 競合店である「いよてつ高島屋」との差別化も念頭にあった。「松山に百貨店が2店舗ある中で、あの大きな高島屋さんと同じ戦いをしていては難しいと思っていました」

 百貨店に一番重要とされる1階と地下にどれだけ人が訪れるようにするか。食品を地下と1階の2層に増やし、化粧品や衣料品といった百貨店部分は2階から上。さらに上にはフィットネスやホテルなど実際に足を運んで体験してもらうフロアに―。データ分析、マーケティングの中で、新しいチャレンジの形が見えてきた。

■買い物がステータスになる店に

 

松山三越のテナント誘致にあたった阿部宰さん

 リニューアル第1弾を直前に控えた10月4日、店内に東京から訪れた阿部宰さんの姿があった。長い名刺には、「株式会社三越伊勢丹 クロージング&アクセサリー1グループマーチャンダイジング部付計画担当(グループMD)スタッフマネージャー」とある。「松山三越の東京の事務局担当ですね」

 阿部さんが取り組んだのが百貨店部分のテナント誘致。1階のアトリウムコートや、2~4階のファッション、雑貨、リビングなどの交渉をほぼ一手に担った。「アプローチは何十軒どころじゃなく、100軒は当たっていると思います」

 入社15年、ファッション畑が長い阿部さんのテナント誘致の基準は「松山の人が喜んでくれるかどうか」だ。

 松山は元々おしゃれの感度が高い街だという。「25年ほど前、ファッション誌が全盛の頃、政令指定都市の次に必ず松山がフォトスナップに載っていたんですよ。おしゃれにすごく気を使っている人が多いですね」。だから「東京で売れているものを持ってくるというプランもあったんですが、ちょっと違うと思っていて。松山のお客さまならこういうものがほしいんじゃないかということを常に頭の中で考えていました」。

 

「テナントや品ぞろえ。松山の皆さんの期待に応えられるような松山三越になったと思います」と話す阿部さん

 イメージを固めるため、松山のショップの経営者たちをほとんど飛び込みの形で訪れ、じっくりと話を聞いた。「以前の松山の人にとってのステータスは、若い人はラフォーレ原宿・松山、ちょっと大人になっていいものを買うときは三越だったという話を聞きました。もう一度そういう店になりたいと思いました」

 力を入れた売り場の一つが、ファッションやギフトなどを販売する1階の「アトリウムマルシェ」。特に目的はないが松山三越に入ってきた人をターゲットに、手頃な価格と豊富な品ぞろえで買い物してもらうことを狙う。

 アトリウムマルシェのある1階には、5メートルほどの大きな木も植えた。「他の店では植栽を設置したことがないので松山三越が初めてです。デートの待ち合わせ場所になるといいなあと思っています」

 阿部さん自身、新潟で過ごした子どもの頃、近くの新潟伊勢丹で買い物をしたり、七五三の服を買ってもらったりしたのがいい思い出だ。「ただ買い物をするだけなら最終的には価格勝負になってしまいます。ネットショッピングを否定はしませんが、楽しいのはやっぱりリアルの買い物。松山三越が『人から買う』というコミュニケーションの場になってもらえたら」。買い物する場所プラス体験する場所。そして思い出になる場所へ。「現状のベストは尽くしたと思っています。妥協して入ってもらったお店はありません」。力強く言い切った。

■デパ地下でもスーパーでもなく

 

リニューアルの全体に携わった齋藤千恵さん

 リニューアルのポイントの一つが「スーパー」の出店交渉だった。齋藤さんは「周辺にちゃんとしたスーパーがないということは分かっていて、かなり前から地下にスーパーを入れることは決まっていました」。名前が挙がってきたのが東京・羽村市に本社がある「福島屋」。愛媛ではなじみが薄いが、メディアでも取り上げられる機会の多い話題のスーパーだ。

 「食べて美味(おい)しく、からだに優しい食材」を全国から厳選している福島屋は、以前から南予のかんきつや畜産の生産者とのつながりもあった。愛媛の1次産業をかなり高く評価してもらっていた点も好材料だった。

 ただ交渉は難航した。「東京では有名かもしれませんが、愛媛に出店してどれだけ知名度があるのかという点。新鮮な商品をお客さまに提供するのに東京のネットワークで本当にできるのかというところがあり、なかなか前に進みませんでした」。福島屋以外にもいろいろアタックし、まとまりかけたところもあったが新型コロナウイルスの感染拡大で断念した例もあった。

 

さまざまな交渉にあたって「地域の力、地元のネットワークを感じることも多かったです」と話す齋藤さん

 最終的には福島屋と、松山市のデザインスタジオ「NINO」が新しい企業を立ち上げて出店することが決まった。細い細い糸をずっとつないでいくような交渉だったという。「地下のあの面積に出店いただくのは福島屋さんにとってもチャレンジだと思います。松山三越の思いを酌み、熱意で出店していただくような形になると思います」

 新店は料理教室的な機能やキッチン雑貨も扱う、スーパーでもデパ地下でもない「ライフスタイルマーケット」として10月26日にオープンする。もちろん松山三越の顧客の関心が高い健康や、食の安心安全へもこだわっていく。齋藤さんは「長年デパ地下でご愛顧いただいていたお客さまの期待を裏切らないというのは大事なポイントでした」と胸をなで下ろした。

■「新しい松山三越」始まる

 

開店前の朝礼を行うスタッフたち

第1弾のリニューアル当日、開店前から大勢の人が行列をつくった

売り場にはたくさんの人が押し寄せた

 第1弾のリニューアル当日、開店前の松山三越には約千人が行列をつくった。準備に追われて疲れていたはずの従業員たちの表情は心なしかうれしそうに見える。

 前日は日付が変わるまで仕事をしていたという齋藤さんも「まずはこのスタートを切れたことがうれしいのひと言です」。来店した人の顔ぶれを見ていた齋藤さん。これまでよく来店してくれていた人が多いと言い「これからリニューアルが評判になって、来たことがないお客さまや観光客の方といった、新しいお客さまに喜んでいただける商業施設になればと思います」。

 顧客対応や誘導をしていた阿部さんは「感無量です。これまでいなかった若いお客さまに来ていただけるのはありがたいですね。お客さまも含めてみんなで新しい松山三越をつくっていきたいです」。来年3月まで引き続き松山三越にかかわる。「これからが本番です。松山のお客さまの要望をうかがい、要望が多い商品やサービスを提供していきます。それが三越伊勢丹の強みですから」

 第2弾、第3弾のリニューアルへ向け、そしてこれからもここにあり続けるため、松山三越は時代に合わせた「百貨店像」を模索し続けていく。

 

【Special E】浅田社長のインタビューはこちら

 

 

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