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㊦理想 「普通の子が棋士になり、努力が報われる世界でないと将棋界に魅力はない」

 プロ棋士を13人、プロの女流棋士を4人育ててきた師匠、森信雄(69)は普段、弟子の対局をほとんど見ない。「これだけいると、対局ごとに一喜一憂していたらもたない」からだ。その森が「格別にうれしかった」と語った対局があった。

 2019年9月、弟子の石川優太(27)=現四段=が、難関の奨励会「三段リーグ」を突破してプロ入りを決めたときだ。小学6年で奨励会入りし、要した年月は13年。石川と同時に奨励会入りしてプロになった別の弟子から6年遅れていた。「苦労して(プロの世界に)入った子は思い入れが強い」と森。当時の取材に「僕は藤井聡太君のような子には、関心がない」とも口にしていた。

■来た子を大事に

 

棋士13人、女流棋士4人を育てた森信雄。「苦労してプロになった弟子は思い入れが深い」という

 あれから2年。改めてその話題を振ると、森は「初めから天才みたいな子ばかりだと、将棋界に幅がなくなる」と理由をつないだ。奨励会試験を受けるには、師匠推薦が必要条件。つまり師匠がいないと、プロを目指すスタートラインに立てないのだ。森の下には、さまざまな境遇の弟子が集まる。「誰も師匠になってくれないという子もいる。頼まれたら断れないので、引き受けますね」

 背景には、自身の歩みも影響している。森は三島高校(四国中央市)を卒業後、一度将棋から離れている。兵庫県の会社に就職し、仕事を変えて19歳で奨励会入り。日本将棋連盟で雑用をしながら24歳で棋士になった。名のある棋士の多くは10代でプロとなり活躍する将棋界。森は「僕自身が『強くない』『年齢が高い』『将来性がない』だった。だから、そういう子の気持ちが分かる」。まずは、会ってみる。そして「来た子を大事にする」が信条だ。

■向き合い方は人それぞれ

 

「100人いたら100通りの接し方がある」。森が大切にするのは「一人一人の弟子と長く向き合うこと」だという

 現在、森一門からプロを目指す奨励会員は、12歳から21歳まで9人いる。彼らと接する上で大切にしているのは、一人一人と長く向き合うことだという。「短い時間だと、表面的なところしか見えない。じっくり時間をかけて向き合わないと。僕には、指導する上でこうすべきといった主義はない。『遊べ』と『勉強しろ』を同じ日に言うこともある。人によって接し方は変えます。100人いたら、100通りの接し方がある」。目はかけるが、言葉は掛けすぎない。「関わるのは大事な急所のところ。人は本当に困っているときでないと聞く耳を持たないから」

 プロになることが立派だと、森は考えていない。むしろ夢をかなえても、かなえられなくても「その後」を見る。「仕事でも何でもその道できちんとやっている人はプロだと思う。将棋は負けることが全て。それを(人生でも)どういかしていくか」

 藤井聡太が「最年少記録」を次々に塗り替え、メディアのスポットは「天才」に集まる。しかし、「普通の子を棋士にしたい」という森は一線を画す。「普通の子は、強い子に比べて何十倍も努力しないといけない。けれど普通の子が棋士になって、努力が報われるようでないと、この世界に魅力はないですよ」

 将棋界をそんな世界にしたいと、森は思っている。

 

「普通の子を棋士にしたい」と森は言う。「普通の子が棋士になって、努力が報われる世界でないと、将棋界に魅力はないですよ」

 

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下:理想 「普通の子が棋士になり、努力が報われる世界でないと将棋界に魅力はない」

 

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