受賞者に聞く
愛媛出版文化賞<1>部門賞/第1部門 研究・評論 竹川郁雄氏
2022年1月16日(日)(愛媛新聞)

「お接待への協力もしてみたい」と語る竹川郁雄さん

「お接待への協力もしてみたい」と語る竹川郁雄さん
第37回愛媛出版文化賞(公益信託愛媛出版文化賞基金、愛媛新聞社主催)の受賞作品が決まった。今回は部門賞、奨励賞ともに4点。それぞれの作者が著書に託した思いなどを紹介する。
[四国遍路の現代「お接待」と歩き遍路(創風社出版)]
【人間模様や魅力 解説 社会学の立場から迫る】
2000年代の四国遍路、特に「お接待」と歩き遍路に着目し、そこで起こる人間模様や魅力といった諸相を明らかにする。
筆者の竹川郁雄さん(65)=砥部町北川毛=は21年3月まで愛媛大法文学部教授(社会学)を務め、同大の「四国遍路・世界の巡礼研究センター」のセンター員として研究を続けてきた。現在も協力研究員として活動している。
遍路者が自費出版するなどした巡拝記約190冊と松山市畑寺町の四国霊場50番札所繁多寺で06~18年に計8回実施した6522人への質問紙調査のデータを基に、社会学の立場からアプローチした。「これまで四国遍路に関する統計や調査は自治体などによる公的なものがなかったが、地元大学として地の利を生かして取り組めた」と振り返った。
空海の修行に由来し、お大師信仰を中心とする四国遍路では、地元住民らが飲食物を振る舞ったり、車に乗せたりするだけでなく、お金を渡すケースがあるという。面識のない人から金品を差し出され、遍路者が戸惑ってうまく対応ができないなどさまざまな事例を取り上げ、文化人類学、心理学の概念も援用して独特の「お接待」の成立過程やその背景を解説している。
竹川さん自身も15年から歩き遍路を始め、このほど3巡目を終えた。実体験も背景に、歩き遍路の魅力についても論考を重ね、時代とともに変容する四国遍路の姿を浮き彫りにした。
遍路宿経営者が高齢化する中、新型コロナウイルス感染拡大で遍路者が激減するなど大打撃を被っているという。「本書が四国遍路の魅力を理解する一助となればうれしい」と述べ「遍路道や外国人遍路の受け入れなど研究対象は多く、今後も続けていきたい」と意気込んだ。(大津貴圭)