受賞者に聞く
愛媛出版文化賞<3>部門賞/第3部門・文学 奨励賞/第4部門・その他 永井康徳氏
2022年1月19日(水)(愛媛新聞)

「クマに似てる、とよく言われますが、今回はネコになりました。多くの人に在宅医療のことを知ってもらえるとうれしい」と語る永井康徳さん

「クマに似てる、とよく言われますが、今回はネコになりました。多くの人に在宅医療のことを知ってもらえるとうれしい」と語る永井康徳さん
部門賞[「たんぽぽ先生の在宅医療エッセイ~在宅医療で大切なこと~」(愛媛新聞サービスセンター)]
奨励賞[「ねこマンガ在宅医たんぽぽ先生物語 さいごはおうちで」(主婦の友社) ミューズワーク(ねこまき)マンガ]
【「最善」寄り添う思い やさしい命の教科書に】
「今でも驚くほど多くの人が在宅医療という選択肢を知らない。誰もが知って選べる時代が来るまで、患者・家族に教わった大切なことをあらゆる方法で伝えていきたい」。20年以上、在宅医療の普及に取り組んできた医師の永井康徳さん(56)は、情報発信にも情熱を注ぐ。新型コロナウイルス禍で年60回の講演がなくなり、空いた時間で「本を7冊書きました」。うち2冊が、同一回としては初のダブル受賞となった。
患者の人生、家族、地域を「まるごと診る」在宅医療に魅了され、2000年に四国初の在宅支援専門の診療所「たんぽぽクリニック」(松山市)を開院。現在は外来・入院も含め、一貫して「納得できる最期まで支える医療」を目指す。
「たんぽぽ先生の―」は20年4月から1年間、本紙「四季録」に連載したエッセーなどをまとめた。「枯れるように亡くなるのが一番楽」「人生会議では、決めなくてもいいからいっぱい話をしよう」…。自身の信条「楽なように やりたいように 後悔しないように」の通り、それぞれの「最善」に寄り添う思いやノウハウがつづられる。
「ねこマンガ」も、同じく温かな雰囲気に満ちたコミックエッセー。登場人物がネコになり「ビールが飲みたい」「点滴はしないで」といった患者の願いをかなえようと悩み、話し合う。永井さんは「重いテーマだけど深刻すぎず、ほんわかとした雰囲気でよかった。一般の人にも分かりやすいと思う」と目を細める。
20年前は、在宅医療といっても「先生が家に来てくれるの?」と驚かれたが、今は「来て、何をしてくれるんですか?」に変わるほど浸透してきた。それでも「まだ医療者も患者もいつか必ず訪れる死に向き合い切れていない」と感じる。「治らなくても『限られた命をどう生きるか』を、もっと一緒に考えたい」
2冊とも今春、続編が出版される。どこで、どんなふうに「そのとき」まで生きたいか―改めて自問し、近しい人に伝えるきっかけを与えてくれる「やさしい命の教科書」になった。(早瀬昌美)