
10円で楽しむ新居浜の夏 安すぎる10円プールの謎を追う
夏の風物詩、プール。今年も県内の多くのプールで水しぶきが上がり、子どもや家族連れが水遊びを楽しんでいる。
その中で異彩を放つのが、新居浜市東雲町1丁目にある市営東雲市民プール、通称「10円プール」。その名の通り、中学生以下は2時間10円という破格だ。
1972年の開業から50年。開業翌年から10円になっているが、いくらなんでも安すぎる。ガソリンや食材など、何もかもが値上がりしている今年はなおさら安さが際立つ。なぜ10円になったのか? 値上げはしないのか? 「安すぎる」プールの謎に迫った。(石川美咲)
■県内最安値のプール

年季の入った看板の「入場料」は「1人2時間まで¥10」。例年は自動販売機で入場券を買うが、コロナ禍では2時間入れ替え制のため直接支払う=6月13日、新居浜市東雲町1丁目
オープン初日の7月15日。夏休み前の金曜日にもかかわらず、午後3時前には水着を着込んだ子どもたちが、門の前で小銭を握りしめて今か今かと開門を待っていた。受け付けで名簿のチェックを済まし、10円を払ったら更衣室へダッシュ。「冷たい」「楽しい」とはしゃぐ声が響いた。
例年は多いときで1日に2千人が訪れるという人気のプール。今年は昨年に続き、新型コロナウイルス対策で1日を3クール(上限300人ずつ)に分けて予約制を導入している。新型コロナ禍で様式は多少変わったが、子ども10円、大人でも60円の使用料は据え置いている。
20市町の自治体が運営するプールの料金を確認した。無料で開放しているところもあったが、スライダーや流水プールなど遊泳用の施設を複数備えたプールの中では新居浜市が最安値。「10円プール」が開業した72年の子どもの使用料は30円で、翌73年から10円になっている。
■小学生が嘆願?

入り口で10円を手渡し、名簿の名前を確認して入場する=7月15日、新居浜市東雲町1丁目
10円の由来が知りたい。まずは、プールを管理する市文化体育振興事業団へ。事業団に勤めて33年の近藤敬彦さんが応じてくれた。
近藤さんは、伝え聞いた話としてこんなことを聞かせてくれた。「当時の小学生が市長に嘆願して、10円になったらしいんです」
ただ、近藤さんも詳しいことは分からないとのことだった。市の担当課のスポーツ振興課に行ってみると、代々の引き継ぎ資料の中に他紙の新聞記事が。そこには、10円になった経緯として、「子供集会」で当時の市長が要望を受け入れ、子どもの使用料を10円に値下げした旨の記載があった。
だが資料には、新聞記事以上のことは「書類などが何も残っておらず確認ができない」とあった。当時小学生の元職員や、プールがある地元の高津小学校出身の職員に聞いてみても「初めて聞いた」「ずっと10円じゃないん?」の連続。50年前のことなので無理もない。中には「大阪から新居浜に引っ越してきて、中学生でも2時間10円なのは衝撃だった」と話す人も。当時から10円はインパクトがあったようだ・・・
県内外の人に衝撃を与える10円プール。果たして、小学生の嘆願説は本当なのか。石川記者がさらに謎に迫っていく