
【リーダーの愛読書】県中小企業団体中央会会長/大富士製紙社長 服部正さん
2023年11月21日(火)08:00

本を「読む」ようになったのは、会社の経営が厳しい状況になったのがきっかけ。それまでは、読んでも小説とかで、自分の勉強になる本というのはあまり読んでなかったですね。会社が厳しくなったのは2010年ごろ、リーマンショックの後。それまで三本柱だったタオルペーパー、リンゴなどを育てる時に使う果実紙、紙おしぼりの売り上げが全部落ち込みました。
景気が失速した状況の中で、本当にもう厳しい。つぶれるかどうかという瀬戸際まで、きていたわけですよ。でも、そんな時に読んだ本が、ものすごく救いになった。それからはいろいろな本を読むようになり、愛読書はいっぱいあります。

4~5年前からね、読むのは電子書籍。子供が誕生祝いで贈ってくれて、使ってみるとこれが便利。出張などで長時間移動する時に本を読むけど、たくさん持っていけないでしょ。でも、電子書籍なら、これ一つの中にたくさんの本を入れていける。辞書機能もあるし、いい言葉をメモするのも簡単だし、活用しています。
生き方 人間として一番大切なこと
著 者 稲盛 和夫
出版社 サンマーク出版
出版年 2004年
心。
著 者 稲盛 和夫
出版社 サンマーク出版
出版年 2019年
会社が厳しくなった時、導かれるように自然と手に取ったのが、(京セラ創業者の)稲盛和夫さんの本。ものすごく感動して勇気づけられて、もう片っ端から読んでいきましたよ。厳しい状況の中で、本当にわらをもつかむ気持ちで、いろいろやっていました。とにかく何とかせんといかんと思って。
そんな時に、毎日毎日を一生懸命生きていれば、先が見えてくるという稲盛さんの言葉はしみました。しっかりと今やるべきことをその日、その日やっていけば、必ず成就しますというような内容ですね。やっぱり毎日、毎日が大事。

稲盛さんは「世のため、人のため」とよく言われます。会社は、そこから始まらないといけない。会社にとって、「世のため、人のため」になるものは何か。
私どもは2011年から、それまでのマーケットではない医療介護の分野への進出を図りました。始めは紙おしぼりの機械で(体などを拭く)レーヨンタオルを作ったけど、普通サイズだったため、「それでは体全身を拭けない」といった声がお客さん、病院の方からありました。
そこで厳しい中でしたが、3000万円ぐらいの投資をして、新しい機械を入れて大きなサイズのタオルを作れるようにしました。そうして、3年目ぐらいから口コミで段々と広がりました。
2016年には第二創業として、医療・介護に特化した商品の製造を行う業態転換を行いました。基本には、お客さんのため、人のためになることというのがあります。
清貧と復興 土光敏夫100の言葉
著 者 出町 譲
出版社 文藝春秋
出版年:2011年
土光敏夫 信念の言葉
編 者 PHP研究所
出版社 PHP研究所
出版年:2009年
稲盛さんの本で自分の心の中にいわゆる自信がついて、「さあやるぞ」というところで次に読んだのが、土光敏夫さんの本。土光さんは、経営難に陥った東芝を再建したり、国の行政改革を行う第二次臨時行政調査会長を務めたり、いろんな改革を実践されていますね。
経団連(日本経済団体連合会)の第4代会長もやっています。そういう土光さんから、会社をどのように進めていくか、リーダーシップを学びました。
私は土光さんの言葉の中でも、「苦境は予見のなさ、予備の怠慢によっておこる」を特に刻んでいます。今の状況と一緒ですよ。
新型コロナや円安で苦しんでいるのは、予見できないから。起こりえるいろんなリスクや、それへの対応を日頃から考えて、計画を立ててやっていかないといけない。

どういうことが起きるか分からない。だからこそ、何か起こっても、十分対応できる会社を作っていかないといけない。とにかく会社を持続していくためには、次々と新しい事業展開をしていかなきゃならないと私は考えています。基本はお客さんのニーズを拾ってくることです。
お客さんの三つの「不」。不満、不便、不安に応える商品を作る。私どもでいけば、さらに加えて不衛生、不備、不快、そして不足。それらを解消することができれば、どこにもない、誰もやったことない商品になる。
お客さんの「不」、ニーズを聞くことがマーケティング。それに基づいて初めて可能になるのがイノベーション。経営に関してのマネジメントも教わりました。
運命を拓く 天風瞑想録
著 者 中村 天風
出版社 講談社
出版年:1998年(文庫)
稲盛さんの心、それから土光さんのリーダーシップ、そして中村天風さんからプラスのイメージでマネジメントしていくリーダーシップ、成功哲学を学びました。
成功哲学では、(アメリカの作家である)ナポレオン・ヒルや(経験則をまとめた)「マーフィーの法則」なども勉強しましたが、みんな一緒なんですよ。いいことを考え、いいことを言葉にして、いいことをする。そして、それは悪い時、厳しい時、苦しい時にこそするんだということです。
例えば会社がもうつぶれかけて、どうしようもなくなった時、もうこれでは駄目だということ考えるのではなく、そういう時にこそ、これは何かのチャンスだ、この厳しさを乗り越えてチェンジしていく時だと考える。そして、これからは新しい方向を目指していくということを従業員へ言葉で発することによって、V字回復してくるわけです。

人は落ち込んだ時や、人に裏切られた時とかに、悪いことを考え、悪いことを言葉にしがち。でもそうすると、必ず悪いことばっかり寄ってくるから駄目ですよ。今を幸せと思えない人は一生幸せになれない。
たった一度の人生、楽しくなければどうするのっていうことです。(パナソニック創業者の)松下幸之助さんは「紙一重」って言われていますけど、本当に考え方一つで天国と地獄の差ができる。
2019年に東京であった中小企業団体中央会の会合に出席した際、かばんをコインロッカーに預けようとしたら、サミットか何かがあって全部クローズ。「仕方ないな」と思って、別の駅で探していたところ、何となく開けたロッカーの中に100万円の札束を発見。
これは事件に巻き込まれたと思って、すぐに警察へ届け出たところ、3カ月経っても、持ち主が現れませんでした。汚い使い方をしたらろくな事がないのでどうするか考えて、日本赤十字社に会社として寄付したところ、赤十字のマークを製品につけることができ、会社の信用が上がりました。

思ってもいない悪いことやトラブルが起こるのは当然なんですよ。大切なのは、それを苦しいとか悲しいとか考えずに、受け入れること。そして、自分のためとか、起こるべくして起こったんだと捉える。
悪いことがあっても、それを悪いことにせず、いいことに変えていくこと。いいことを考えて、いいことを言葉にして、いいことをすれば、必ずいいことが寄ってくるんだから。
(聞き手・加藤太啓)
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